諸君私は汁なし坦々麺が好きだ。
汁なし坦々麺を出すラーメン屋でも、仙台にある誠和というラーメン屋は他の汁なし坦々麺とは一線を画している。
ごまの風味豊かな濃厚な肉みそと、これでもかと入っている唐辛子と花椒。それを太目の麺にがっつり絡ませていただく。
「他と何が違うんだ?」という感想しか出ない文章になったのは私が語彙に乏しいせい。
すごく辛いので箸休めにほうれんそうのおひたしや味玉がついて、それでリセットしながらハフッ、ハムハム、ハフッ!っと口内にラーメンをかきこむ。箸が止まらない。
地元でも人気店でランチタイムや土日は列が出来る事もある。
ここは味噌ラーメンが美味しくて有名だそうで、10食限定の汁なし坦々麺はいつ行っても必ずまだあるのが嬉しい所だ。
多分私のために汁なし坦々麺は存在しているというくらい、閉店間際に行っても必ずある。
しかしこの度、残念ながら誠和は9月いっぱいで閉店してしまうらしい。
1年振り3度目の辞める辞める宣言。
店主は以前より催眠術師になりたいと望んでいて、有名な催眠術師に弟子入りまでして技術を習得したと言って私に催眠術をかけてくれた。
汁なし坦々麺を食べ過ぎて分厚い肉のヴェールに包まれたゆえかひどく鈍感な私に催眠術はきかなかった。
催眠術バーを開店するという噂を聞いて、どうせなら催眠術で坦々麺を食べたつもりにさせてくれればダイエットにもいいのに…と思った。
でも…私は本当に坦々麺を食べていたのだろうか。あの店は本当にあの場所にあるのだろうか。あの店主は本当に店主なんだろうか。
どんぶりのなかで若干の汁と絡み合った麺が迷路のように今日も私の食欲を迷わせデブという健康の終焉に導いていく。
もしあの誠和が閉店したとしても、催眠術にかかったままでいれば誠和のある場所に行くと誠和があって、これからもずっと誠和の汁なし坦々麺を食べ続けられるのかもしれない。